遺言という言葉には、「いごん」と「ゆいごん」という2つの読み方があります。普段は「ゆいごん」と呼ぶことが多い一方、弁護士や司法書士、公証人などが法律上の制度として説明するときは「いごん」と読む傾向があります。
どちらか一方が誤りというわけではなく、読み方によって話している範囲や場面が少し変わります。ただし、家族への手紙や録音を残すことと、法律上の効力を持つ遺言書を作ることは同じではありません。
読み方だけで迷う必要はありませんが、実際に財産の承継方法を決めたい場合は、法律で定められた方式を意識する必要があります。言葉の違いから遺言書の基本まで順に押さえ、何を準備すればよいのか落ち着いて整理してみてください。
遺言はいごんとゆいごんのどちらで読むのか
まず押さえたいのは、「遺言」には複数の読み方があり、使う場面によって選ばれているという点です。日常の会話と法律実務の慣用を分けて考えると、違いが見えやすくなります。
日常会話ではゆいごんと読むのが一般的
家族や知人との会話では、「ゆいごん」という読み方が広く使われています。例えば、「祖父が生前に残したゆいごんを家族で聞いた」「葬儀について本人のゆいごんがあった」といった使い方です。
この場合の遺言は、財産の分け方だけを意味するとは限りません。葬儀の希望、家族への感謝、友人への伝言、ペットの世話など、亡くなった後のために残した言葉を幅広く指すことがあります。
そのため、普段の会話で「ゆいごん」と読んでも問題はありません。専門窓口へ相談するときも、読み方を理由に話が通じなくなることは通常なく、何を実現したいのかを具体的に伝えるほうが大切です。
法律実務ではいごんと読むことが多い
相続手続きや遺言書の方式について話す場面では、「いごん」という読み方が慣用されています。例えば、「自筆証書いごん」「公正証書いごん」「いごん執行者」のように、法律上の制度や効果を説明するときに使われます。
ただし、民法の条文に読み仮名が付され、「必ずいごんと読まなければならない」と定められているわけではありません。法律実務で意味を区別しやすくするために定着した読み方と理解するとよいでしょう。
公証役場や法務局へ問い合わせる際も、無理に言い直す必要はありません。「遺言書を作りたい」「自筆で書いた文書を保管したい」と目的を添えれば、必要な制度を確認しやすくなります。
どちらの読み方でも誤りとは限らない
「いごん」と「ゆいごん」は、同じ漢字を異なる場面で読んでいるものです。「いごんだけが正解」「ゆいごんは法律上間違い」と単純に分ける必要はありません。
実際には、一般向けの金融機関や公的機関の案内でも「ゆいごん」と読む例があり、法律関係者の説明では「いごん」が多く見られます。読み方よりも、法律上の効果を求めるのか、家族へ気持ちを伝えたいのかを区別することが大切です。
例えば、家族との会話では「ゆいごん」、専門家との打ち合わせでは相手に合わせて「いごん」としてもよいでしょう。どちらを使っても、相談の内容を具体的に説明できれば支障はありません。
法律上の制度として説明するときは「いごん」が慣用されています。
読み方よりも、法的な効力を求める内容かどうかを確認しましょう。
具体的には、専門窓口へ連絡するときに「読み方が分からない」と悩むより、「自宅を配偶者に引き継がせたい」「家族への手紙も残したい」と伝えると便利です。財産に関する希望と、気持ちを伝える部分を分けてメモしておくと相談が進みやすくなります。
- 日常会話では「ゆいごん」が広く使われています
- 法律実務では「いごん」と読むことが多くあります
- どちらで読んでも、直ちに誤りになるわけではありません
- 相談時は読み方より実現したい内容を伝えましょう
いごんとゆいごんは意味も違うのか
読み方の傾向が分かったところで、次は意味の範囲を見ていきます。一般には「ゆいごん」が広い言い残しを含み、「いごん」が法律上の効果を持つ意思表示を示すと説明されます。
ゆいごんは家族への言葉も含む広い表現
「ゆいごん」は、亡くなった後のために残された言葉や希望を広く表すことがあります。形式は手紙に限らず、ノート、音声、動画、家族との会話なども日常的な意味では含まれます。
例えば、「葬儀は親しい人だけで行ってほしい」「写真はこの一枚を使ってほしい」「長く支えてくれた家族に感謝している」といった内容です。こうした言葉には、本人の気持ちを家族へ伝える役割があります。
一方で、録音や動画に財産の分け方を残しただけでは、通常の遺言書として扱われないことがあります。気持ちを残す手段として役立っても、法律上の方式を満たしているかは別に確認しなければなりません。
いごんは法律上の効果を意識した表現
法律実務でいう遺言は、本人が亡くなった後に一定の法律効果を生じさせるための意思表示です。財産を誰に承継させるか、法定相続人以外へ財産を遺贈するか、遺言執行者を誰にするかなどを定める場面があります。
本人が自由に書いた文章であっても、法律で定められた方式から外れていれば、希望どおりの効果が認められないおそれがあります。内容が明確でも、日付や署名などの要件に不備があれば問題になるため、形式の確認が欠かせません。
法律上の効果を求める場合は、「自分の思いを書けば十分」と考えず、選んだ方式に必要な条件を法務省や日本公証人連合会の案内で確認してください。財産や親族関係が複雑なときは、専門家へ相談すると安心です。
遺言書とエンディングノートは役割が異なる
終活では、遺言書とエンディングノートを一緒に準備することがありますが、役割は同じではありません。遺言書は法律上の効果を生じさせるための文書であり、エンディングノートは希望や情報を家族へ伝えるための記録として使われます。
エンディングノートには、連絡してほしい人、医療や介護についての考え、葬儀や供養の希望、契約中のサービス、デジタル機器の所在などを整理できます。ただし、財産の承継方法を書くだけで遺言書の代わりになるとは限りません。
例えば、「自宅は長男に相続させる」という法律上の希望は遺言書で整え、「葬儀では好きだった曲を流してほしい」という希望はエンディングノートにも記す方法があります。目的に応じて文書を使い分けてみてください。
| 区分 | 主な内容 | 法律上の扱い |
|---|---|---|
| 日常的なゆいごん | 感謝、葬儀、供養、家族への希望 | 形式によっては法的効力が認められない |
| 法律上のいごん | 財産承継、遺贈、遺言執行者の指定など | 法律で定められた方式を満たす必要がある |
| エンディングノート | 連絡先、契約、医療、葬儀の希望など | 一般に情報共有や意思伝達のために使う |
具体例として、まず紙を「法律上の手続き」「家族への希望」「財産と契約の一覧」の3つに分けてみてください。自宅や預貯金を誰に承継させたいかは遺言書の相談事項へ、葬儀や供養の希望は家族への共有事項へ整理すると分かりやすくなります。
- ゆいごんは家族への言葉を含む広い意味で使われます
- 法律上のいごんは方式を守る必要があります
- 録音や動画だけでは法律上の遺言書にならない場合があります
- エンディングノートは遺言書と役割が異なります
法律上の遺言書にはどのような種類があるか

意味の違いを押さえたら、今度は法律上の遺言書の方式を確認しましょう。通常の状況で使われる代表的な方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
自筆証書遺言は自分で作成する方式
自筆証書遺言は、本人が自ら作成する方式です。公証役場へ行かずに準備できるため着手しやすい一方、法律で定められた書き方を守らなければ、全部または一部が意図どおりに扱われないおそれがあります。
本文、日付、氏名など、自筆が求められる部分があります。財産目録には一定の例外がありますが、署名や押印などの扱いも含め、作成時点の法務省の案内を確認する必要があります。
完成した遺言書を自宅で保管すると、紛失、発見の遅れ、改変を疑われるといった心配が生じるかもしれません。法務局には自筆証書遺言書保管制度があるため、利用条件や予約方法を公式サイトで確認するとよいでしょう。
公正証書遺言は公証人が作成に関与する
公正証書遺言は、公証人が本人の意思を確認し、法律に沿った公正証書として作成する方式です。一般には証人の立会いが必要で、準備する資料や手数料は財産の内容などによって変わります。
日本公証人連合会の案内では、まず遺言の内容をまとめたメモや必要資料を提出し、公証人が文案を作成します。その後、本人が内容を確認し、作成日に改めて意思を伝える流れが示されています。
原本が公証役場で保管され、相続開始後に家庭裁判所の検認を必要としない点も特徴です。手書きが難しい場合や、形式上の不備をできるだけ避けたい場合は、公証役場へ相談してみてください。
秘密証書遺言は内容を秘密にできる方式
秘密証書遺言は、遺言書の内容を秘密にしたまま、その文書が本人の遺言書であることを公証人と証人の前で明らかにする方式です。内容そのものを公証人が確認して有効性を整える仕組みではありません。
そのため、書かれている内容や形式に問題があれば、相続開始後に争いになる可能性があります。秘密を保てる利点だけで選ばず、作成方法、保管方法、検認の要否まで含めて比較することが大切です。
利用を考える場合は、本人の希望に合う方式かを公証役場や法律の専門家へ相談すると安心です。単に家族へ内容を見せたくないという理由だけなら、公正証書遺言の保管方法も含めて検討するとよいでしょう。
公正証書遺言は公証人が関与し、原本が公証役場で保管されます。
秘密証書遺言は内容を秘密にできますが、内容の有効性まで保証されるものではありません。
Q. 費用を抑えるなら自筆証書遺言だけでよいですか。
費用だけでなく、財産の種類、家族関係、手書きの負担、保管方法も比べる必要があります。法務局の保管制度や公正証書遺言も含めて検討してください。
Q. 公正証書遺言なら希望はすべて実現しますか。
方式上の不備を防ぎやすい方法ですが、遺留分や財産の変動、遺言内容の実行方法など別の論点があります。個別事情は公証人や専門家へ確認しましょう。
- 代表的な方式には自筆証書、公正証書、秘密証書があります
- 自筆証書遺言は方式と保管方法の確認が必要です
- 公正証書遺言は公証人と証人が作成に関わります
- 費用だけでなく確実性や家族状況も比較しましょう
遺言を準備するときに確認したいこと
遺言書の種類が分かったところで、実際の準備へ進みます。最初から完成した文章を書こうとせず、財産、家族、希望、保管方法を順番に整理すると取り組みやすくなります。
財産と関係者を一覧にする
遺言書を考える前に、どのような財産や契約があるのかを一覧にします。預貯金、不動産、有価証券、保険、貸付金、事業用資産だけでなく、借入金や保証債務などの負担も確認しておきましょう。
次に、配偶者、子、父母、兄弟姉妹など、相続に関係する可能性がある人を整理します。戸籍上の関係と日常的な家族関係が一致しないこともあるため、思い込みだけで相続人を決めないことが大切です。
例えば、一覧表に「財産名」「名義」「保管場所」「おおよその内容」「確認資料」を書きます。金額は変動するため、定期預金証書、登記事項証明書、証券会社の書類など、後から確認できる資料の所在も記録しておくと便利です。
誰に何を残したいかを具体化する
財産の一覧ができたら、「誰に」「何を」「どのように」残したいかを具体化します。「家族で仲良く分けてほしい」といった表現だけでは、実際の手続きで判断が分かれるかもしれません。
不動産の所在地、預貯金口座の特定方法、割合で分けるのか特定の財産を渡すのかなど、実行時に迷いにくい形を考えます。ただし、財産は売却や口座変更で変わるため、将来の変動も意識した書き方が必要です。
法定相続人以外へ財産を残したい場合や、家族ごとの配分に大きな差を設けたい場合は、遺留分などの確認も欠かせません。希望だけで判断せず、専門家へ家族関係と財産の全体像を伝えて相談してください。
気持ちの文章と法的な指定を分ける
遺言書には、家族への気持ちや分配理由を付言事項として記すことがあります。付言事項は、本人の考えを伝え、家族が内容を受け止める助けになる場合がありますが、一般に財産の指定と同じ法律効果を持つものではありません。
例えば、「介護を担ってくれた家族に自宅を残したい。ほかの家族を軽んじる意図はない」と理由を添える方法があります。ただし、強い非難や家族を傷つける表現は、かえって対立を深めるかもしれません。
財産に関する指定は曖昧さを避け、気持ちを伝える文章は落ち着いた言葉に分けると読みやすくなります。伝えたい内容が多い場合は、遺言書とは別に手紙やエンディングノートを用意する方法もあります。
作成後の保管と見直しも決める
遺言書は作成して終わりではありません。家族構成、所有財産、住まい、事業、本人の考えが変われば、内容と現状が合わなくなることがあります。
結婚、離婚、出生、死亡、不動産の売却、口座の変更などがあったときは見直すきっかけになります。複数の遺言書が残ると内容の抵触が問題になる場合があるため、変更や撤回も法律上の方式に沿って行う必要があります。
保管場所を誰にも知らせないと、相続開始後に見つからないおそれがあります。一方、内容を広く知らせる必要はありません。遺言書の種類、保管先、相談した専門家の連絡先など、発見に必要な情報だけを信頼できる人へ共有しておくと安心です。
| 準備項目 | 確認する内容 | 相談先の例 |
|---|---|---|
| 財産と負担 | 預貯金、不動産、証券、保険、借入金など | 金融機関、法務局、税理士など |
| 相続関係 | 戸籍上の相続人、遺贈したい相手 | 弁護士、司法書士など |
| 遺言書の方式 | 自筆証書、公正証書、秘密証書の選択 | 法務局、公証役場、専門家 |
| 保管と実行 | 保管場所、遺言執行者、見直し時期 | 公証役場、法務局、専門家 |
明日から始めるなら、まず財産一覧を一枚作り、「法律上実現したいこと」と「家族へ伝えたいこと」を別々に書いてください。そのメモを持って法務局の案内を確認するか、最寄りの公証役場や専門家へ相談すると、方式を選びやすくなります。
- 財産だけでなく借入金や契約も整理します
- 戸籍上の相続関係を思い込みで判断しないようにします
- 法的な指定と家族への気持ちは分けて書きます
- 保管先と見直す時期まで決めておきましょう
まとめ
遺言は日常では「ゆいごん」、法律実務では「いごん」と読まれる傾向がありますが、どちらで読んでも直ちに誤りではありません。
財産の承継について法的な効果を求める場合は、財産と家族関係を一覧にしたうえで、法務省の自筆証書遺言書保管制度や日本公証人連合会の公正証書遺言の案内を確認してください。
読み方に迷って準備を止める必要はありません。家族へ伝えたい気持ちと、法律上実現したい内容を分け、自分に合う方法を落ち着いて選んでみてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の葬儀・終活・供養に関するご判断や手続きを保証するものではありません。費用・手続き・慣習は地域や宗派、事業者によって異なる場合がありますので、詳細は各専門機関や事業者に直接ご確認ください。

